刈り取る者-No28
一体、何がどうしてこうなったのか。
確か、協力要請の為に出かけるリーダーと王の護衛という仕事ではなかったか。

踏んだり蹴ったりの状況に身を任せ――――気付けば、全員そろって牢の中に居た。
しかも、エルフの長老の差し金と来る。
一人どころか、仕切りも何もないむき出しの牢屋に二晩も人と一緒に過ごす事を強要され、苛々は最高潮に達していたが怒りをぶつけた所で疲れるだけだ。
「…苛ついたって仕方ない。あの長老の言うとおり…暫く大人しくするしかないようだね。」
そんなテッドの気持ちを見越したように、リーダーが静かに言葉を漏らす。
それまでリノ王は何やらぶちぶち言っていたが、その一言に同意したように頭を掻いて息を吐く。
「…なら、体力温存だ。いざって時にいつでも動けるようにな。」
まだ残る僅かな苛立ちを含ませて言うと、テッドは牢の端に腰掛ける。
「おいおい、そんな暢気な事でいいのかよ!?」
半ば巻き込まれる形で、同じ牢に入れられたナ・ナル島長の息子――確か名はアクセルと言っただろうか、忌々しげにテッドを睨みつけそう吐き捨てる。
「…なら、焦って叫んで此処から出られるのか?」
対するテッドの声は低く這う様な声だ。
「例えば、その背中の剣にものを言わせて檻を砕いてみるか?それとも喉が枯れるまで人を呼び続けて来てくれる奇跡を待つか?…現実に、できるものならな。」
「なんだと!?」
「待ってください!」
今にもテッドに殴りかからんばかりに近付くアクセルとの間に割り込むように対座したのは先程まで沈黙していたアルドだった。
「あの…僕もリーダーやテッドくんの言うとおりだと思います。何かあるのは判りますが、この檻を開ける方法も判らない以上…どうしようもありません…。」
「…ちっ!ったく…」
ぺっと唾を吐くと、そのままテッドとは反対の方に座り込んだ。


それ以降、暫く誰も言葉を発する事もなく、ただ重苦しい沈黙が流れて落ちる。
――――牢は嫌いだ。
そう、テッドは思う。
いや、好きな人がそうそう居るとは思えないが…常人以上に、テッドはその息苦しさを感じていた。
この牢の中に根深く篭る、底冷えた陰湿な気が――――空気が自分の身に纏わりついてくる。
そのせいだろうか……右手が僅かにだが疼く。
いや、違う。
テッドは即座に頭を振った。
此処に居る所為だけじゃない、途轍もないこの怨念のような……嫌な胸騒ぎが止まらない。
一瞬ぶる、と肩を震わせると、不意に声が掛かった。
「…大丈夫?テッドくん、寒いの?」
「別に。…大丈夫だから放っておいてくれ。」
「でも、顔が青いよ。ええっと…毛布があれば良いんだけど…布しかなくって…」
「…いいから!」
訳の判らない苛立ちから、必要以上に邪険に伸ばされた手を振り払う。
「ご、ごめん…あの、でも…」
「アルド、大丈夫だ。」
余りの迫力に少しうろたえた感じのアルドの問いかけを遮ったのは、妙に確信的に呟くリーダーの声だった。
「セプターさん…でも体調が悪かったら…」
「彼は柔ではないよ…アルド。」
優しそうに笑いながらそう告げると、直ぐにテッドに向き直った。
「………テッド。」
咎めている訳ではない、だが問う様な静かな声で膝を付き、蹲っているテッドに声をかける。
「何か、あるのか。」
問いかけは、普通に聞くと全く要領を得ない。
だが、テッドは何を聞かれたのか読み取れてしまった。
「……長老の、言葉だ。」
ぽつりと呟く。
「あいつは言ったな、俺たちは『生かす』、って。」
『これから起こる事の見届け人になってもらう』とも。
エルフ達は、何かをする気なのだ。
―――――人間達に。
「…そうしたら………、他の奴は…?」

しん、と一瞬周りの空気が張り詰めたように静かになった。

「まさか…っ!」
思わず声を上げたのはアルドだった。
他の二人にも聞こえたらしく、アクセルはまだピンときていないようだったがリノ王はあからさまに苦みばしった表情を浮かべテッド達の方に視線を向けていた。
そして、目前に控えているリーダーはと言うと、特にこれといって動揺はない。
「テッドも、そう思うのか。」
テッドの言わんとしている事など、既に感づいているのだろう―――言葉。
「…外れていて欲しいがな。」
だが、その思いに反して右手の疼きはどんどん増していく。
「…テッドくん…」
嫌な―――予感しかしない。
その予感が事実なのだと知るのに、時間は掛からなかった。

一人のエルフに牢から出してもらう頃には、テッドは既に感じていた。
―――――島全体を蝕むような死臭に。

集落へと続く道を走りながら、痛いほど疼く右手を左手で抑えながら走る。
右手の紋章が歓喜の声を上げ、微かに光る。

―――――やめろ。
テッドは半ば祈るような気持ちで、右手を制御しようと押さえ込む。

だが、止められない。
命を食う―――――腹を満たすその至福が、右手から忌々しいほど伝わった。
「着いた―――――っ」
そして――――辿りついたその先に見えた残酷な光景に、テッドだけでなく全員息を呑む。
その動揺の隙を突くように、紋章はうねりを上げた。
「――――………っ!」

無理に抑えようとしたが間に合わず、右手はその一瞬の内に死んでいった島人達の命を掠め取っていった。



「…テッドくん。大丈夫?」
全てが終わり、船に乗り共に戦う有志を待つその途中。
随分と心配げな表情のアルドが、やたら自分を気にかけていた。
きっと、自分はそれほど酷い顔をしているのだろう。
右手の紋章の制御は精神力を消耗する。
特に、食らった後は―――――自分の精神力が落ちる所為だろうか、さらに酷くなる。
判っているが、今は、多少無理にでもそれを平然と繕わなければならない。
出来うる限り平気そうな顔をして、アルドに冷めた目線を向けた。
「…何がだ。」
「顔が…青い。あの時もそうだったけど、疲れてる?それとも…何処か体の調子が悪いんじゃ…」
控えめに頬に触れようとする手を、ぱし、と左手で叩いて払いのける。
「平気だ、触れるな。」
「…でも。」
「触れるな。」
強い口調で言い放ち、アルドから急ぎ離れた。
今は、気分も、紋章も、何もかも制御する自信はない。


きっと、刈り取った命達は、暫く自分を苛むだろう。
暫く連れ出すな、とセプターに言い残して一人で先に船に向かう。


死臭を孕んだ陰鬱な気分は、何時までも消えなかった。






100のお題用SS
アルテド祭りに出したものの加筆修正。
むしろやりすぎ。(え

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