挽歌



キン、と墓場に程近い広場に剣戟が響きわたる。

「…ったくもう、いつまでやってるんだよ!」
楽しそうに剣を交える二匹に向かってそう叫ぶが、もちろん双方とも聞いてはいない。
「…いい加減にしないと陽が暮れるぞ…ったく…」
「ほんと、相変わらずねえ。」
声は、コノエの隣からした。
驚きにぶわりと尾を膨らませて其方を振り返ると、何時からそこにいたのか初老の雌がコノエの隣で同じように二匹の様子を眺めている。
「こんにちは。」
その雌猫は、こちらを振り返りにこやかに笑いかけるとコノエに向かって会釈をした。
「あ、こ、こんにちは。」
ぽかんとした顔で会釈を返すコノエに、雌猫は笑いながら二匹に目線を戻した。
「あの二匹、さっきからああなのかしら?」
「え、あ、まあ…」
「仕方がない仔達ねえ。お客さんを一匹で放っておくなんて。」
昔と全く変わらないわ、と口では言うものの何処か愛情を滲ませた口調で呟いている。
それは、誰か良く知っている猫の口調と、何処かが似ている気がした。
「余り放っておくと陽が暮れてしまうわね。そろそろ止めましょうか。」
コノエがさっきから何度言っても駄目だった、と呆れたように言うが、彼女はまるで意に介さずそのまま二匹の元へ歩きだした。
「ちょ…アンタ、あぶな…」
「そこまで!」
ぱん、と手を叩いて何故だか良く通る声で言い放つと、二匹の動きがぴたりと止まった。
ライはちらりと一瞥をくれただけだったが、慌ててコノエ達の方を振り返ったバルドはあからさまに青ざめた顔で硬直している。
「二匹とも、鍛錬を楽しむのは良いのだけれど、お客様を放っておくのはあまり感心しないわね。」
硬直したままのバルドの隣で、ライは仕様がない、と言うような溜息を吐いて剣を鞘に納めた。
「お前が待たせるからだろう。」
「ライったら、そう雌を急かしちゃ駄目よ?でもありがとう。この子を捕まえててくれて。」
その言葉にやっと硬直が解けたのか、バルドは慌ててライを振り返った。
「ライ、お前まさか…」
「…知らんな。」
一匹、訳が判っていない表情で三匹をきょろきょろと見渡すと、雌猫がすべてを悟った様にコノエに向けて笑いかける。
「あら、ごめんなさい。直接会うのは初めてよね、すっかり自己紹介が遅れてしまったわ。」
バルドがあ、と声を上げるまもなくちらりとバルドに目線を向け老猫は続けた。
「初めまして、コノエさん。…私、この仔の…シェリルの母です。」
一瞬だけ起こる、凍り付いたような沈黙の後。
「え、えええええええええっ!!!」
にっこりと笑って告げられた言葉に、バルドはばつが悪そうに頭を抱え、コノエは素っ頓狂な声を上げた。