冬灯花




 ――――リークスとの戦いが終わり、再び穏やかな陽の月が昇り始めたその日。

 コノエとバルドが命からがらあの森を抜けた後、藍閃の街や宿のあちこちが無残に壊されているのを目の当たりにしたものの、それに動揺する間もなく怪我の出血による貧血と疲労が限界に来たかバルドが倒れてしまった。
 倒れてから目覚める間、何があってどうしたかバルドは当然知り得ないが、コノエには随分心配をかけてしまったらしい、と言う事だけは目が覚めたときの彼の目を見ればすぐに分かった。
「……コノエ」
 我ながら掠れた声だ、と思う。
「無事、か」
 それでも何とかそう言ってぎこちなく笑いかけてやると、コノエの大きな瞳から涙が零れ落ちた。
「ああ……無事だよ、俺も、アンタも……」
「そうか。……良かった」
 心底安堵した声でそう言って頬に手を伸ばし涙を拭ってやろうとすると、それが届く前にコノエが両手を重ねて握り返し小さく無事でよかった、と呟く。
「……心配をかけてすまなかったな、コノエ」
 もう大丈夫だ、と声をかけると、コノエは首を縦に振ってうん、と声を漏らした。
 僅かに、右手に触れるコノエの手の力が強くなる。
 いきなりの感触にほんの少し痛みが走るが、そんな事はどうでも良かった。
 握り締められた手から包帯越しでも感じる確かな温もりに、バルドはずっと奥底で望みつつも叶うべくもないと諦めようとしていた平穏が漸く戻ってくるのだ、と思った。
 これから、コノエと一緒に過ごすだろう平和な日々――
 年甲斐もなくそんな事を思い浮かべながら、力の入らぬ手でそっとコノエの手を握り返した。

 ――――もう、何も心配することはない。
 そう、思っていたのだ――――この時は、まだ。


 そしてコノエもまた、バルドの掠れた声や見詰める深い琥珀の瞳に本当に安心していた。
 バルドがいつ目覚めるかと心配でどうしようもなくて眠れぬ日々が続いていたが、これで少しは眠れるようになるかも知れない、そう思う。


 だから、この時コノエは気づかなかったのだ――――己の身に、訪れていた変化を。


結論としては 「俺達の戦いはこれからだ!」的な本です。